相続税申告(相続発生後)
相続税申告を依頼する税理士の選び方
1 相続税に強い税理士に申告を依頼することが重要
相続税を税理士に依頼する場合には、相続税に強い税理士を選ぶことが大切です。
実は、税金には、たくさんの分野があります。
代表的なものとしては、所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税などが挙げられます。
それぞれ根拠となる法律が異なり、計算の方法や申告書の作成方法、申告の時期等が大きく違うため、ひとりの税理士がすべての税金を得意分野として専門的に取り扱うことは困難であると考えられます。
特に相続税は、いくつかの点において、多くの税理士が取り扱っている所得税、法人税、消費税とは性質が異なります。
1つめは、相続税は、被相続人がお亡くなりになった時点における相続財産の評価額に対して課される税金であるという点です。
被相続人がお亡くなりになった時点の相続財産を調査し、相続税特有の評価方法を以て評価額を算定するという処理が必要になります。
2つめは、相続税は、かつてよりは増えたものの、他の税金と比べると、申告件数自体が多くないため、取り扱う機会が少ないということが挙げられます。
そのため、相続税を重点的に取り扱い、多くの申告実績がある税理士を選ぶことが大切になります。
2 相続税申告の経験・ノウハウが相続税額に影響を与える理由
相続税は、他の税金とは性質が異なる点があるというお話をしました。
被相続人の死亡時点における相続財産の評価技術は、相続税額の増減に直接影響するので、とても重要です。
特に、土地については、相続税特有の評価方法があることに加え、一定の要件を満たす場合には大きく評価額を減額できる特例等もあります。
土地は一般的に高額な相続財産である分、評価技術や特例を駆使して土地の評価額を適切に低減できるか否かは、相続税の納税額に大きく影響します。
また、相続税は、遺産分割の仕方によっても、納税額が大きく異なります。
たとえば、被相続人の配偶者は、相続で取得した財産のうち、一定の評価額までは相続税が控除される優遇措置があります。
また、一定の要件を満たす相続人が被相続人の自宅の宅地を取得した場合には、宅地の評価額を大きく下げられる特例もあります。
したがって、相続税は、相続税を取り扱っており、多くの相続税申告実績がある税理士に依頼することが重要であるといえます。
相続時精算課税制度について
1 相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、一定の要件を満たす贈与者から、一定の要件を満たす受贈者に対する生前の贈与で課税された贈与税を、相続時に精算する制度をいいます。
相続のときに、生前贈与された財産を相続財産に加えて精算をすることから、相続時精算課税制度と呼ばれます。
相続時精算課税制度を選択した場合、元の課税制度である暦年課税へ戻すことはできませんが、2500万円までの贈与については贈与時には課税されず、2500万円を超える贈与についても一律20%の税率で課税されます。
以下、相続時精算課税制度の対象者、贈与税額・相続税額の計算方法、令和6年1月1日以後に贈与する場合の基礎控除について説明します。
なお、国税庁のウェブサイトにおいて、相続時精算課税制度の詳しい説明を見ることができます。
参考リンク:国税庁・相続時精算課税の選択
2 相続時精算課税制度の対象者
贈与者は、贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母などです。
受贈者は、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫など)である推定相続人または孫です。
【参考条文】
(相続時精算課税の選択)
相続税法第21条の9第1項
贈与により財産を取得した者がその贈与をした者の推定相続人(その贈与をした者の直系卑属である者のうちその年一月一日において十八歳以上であるものに限る。)であり、かつ、その贈与をした者が同日において六十歳以上の者である場合には、その贈与により財産を取得した者は、その贈与に係る財産について、この節の規定の適用を受けることができる。
(相続時精算課税適用者の特例)
租税特別措置法第70条の2の6第1項
平成二十七年一月一日以後に贈与により財産を取得した者がその贈与をした者の孫(その年一月一日において十八歳以上である者に限る。)であり、かつ、その贈与をした者がその年一月一日において六十歳以上の者である場合には、その贈与により財産を取得した者については、相続税法第二十一条の九の規定を準用する。
3 贈与税額・相続税額の計算方法
相続時精算課税の適用を受ける贈与については、相続時精算課税の選択をした年分以後は、特定贈与者以外の者からの贈与財産と区分して、1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額を基に贈与税額を計算します。
このときの贈与税の額は、贈与財産の価額の合計額から、複数年にわたり利用できる特別控除額(限度額は2500万円であり、前年以前において、既にこの特別控除額を控除している場合は、残額が限度額。)を控除した後の金額に、一律20%の税率を乗じて算出します。
相続時精算課税を選択した場合の相続税額は、特定贈与者が亡くなった時に、生前に贈与を受けた相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額(贈与時の価額)と、相続や遺贈により取得した財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額を控除して算出します。
もし相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額がある場合、相続税の申告をすることにより、還付を受けられます。
4 令和6年1月1日以後に贈与する場合の基礎控除
令和6年1月1日以後の生前贈与については、相続時精算課税に係る基礎控除が創設されました。
相続時精算課税を選択した受贈者が、相続時精算課税制度の対象となる贈与者から令和6年1月1日以後に贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、贈与税の課税価格から基礎控額110万円が控除されます。
相続税の課税の対象となる財産
1 相続税の課税の対象となる財産にはどのようなものがあるか
相続税の課税の対象となる財産は、多岐に渡ります。
民法上、相続財産とされるものはほぼ含まれるほか、民法上は相続財産とはされませんが、相続税の計算上は相続財産とみなされる財産(みなし相続財産)も含まれます。
また、被相続人の死亡以前の一定期間内に相続人に贈与された財産も含まれます。
代表的な相続財産としては、現金・預貯金、不動産、有価証券等、価値のある動産、債権が挙げられます。
みなし相続財産には、死亡保険金、死亡退職金が挙げられます。
そのほか、相続財産から控除できる債務等として、未払金や葬儀費が挙げられます。
以下、それぞれについて詳しく説明します。
2 現金・預貯金
被相続人の現金には、いわゆるタンス預金や、財布の中の現金、死亡直前に葬儀費等に充てる目的で引き出した預貯金などがあります。
預貯金については、被相続人死亡時点の預貯金額が相続財産になります。
通帳を確認することが基本となりますが、通帳がない場合には被相続人死亡時点の残高証明書を取得して預貯金額を確認します。
定期預金については、被相続人死亡時点までに発生した既経過利息も相続財産に含まれるため、既経過利息計算書も取得してください。
また、相続人の名義で保有していた預貯金(いわゆる名義預金)も相続財産となりますので注意が必要です。
3 不動産
被相続人が所有していた土地、建物は相続財産となります。
自宅土地建物のほか、賃貸用の物件、田や畑などがあります。
固定資産税納税通知書や名寄帳を参照し、被相続人が所有していた不動産を確認します。
賃貸用の物件については、借地権割合等を控除して評価額を下げることができることから、賃貸していることを裏付ける資料として、賃貸借契約書も確認します。
4 有価証券等
上場株式、非上場株式、投資信託などが相続財産になります。
上場株式や投資信託は、証券会社等から残高証明書等を取得し、確認します。
証券会社等によっては、被相続人死亡時点の評価額を参考として提示してくれることもあります。
非上場株式については、価値を評価するための資料として、会社の決算書等を用意します。
5 価値のある動産
自動車や金のインゴット、宝石類、絵画などの骨とう品類などが課税の対象となります。
6 債権
被相続人が返済を受けるはずであった貸付金や、過誤納付金など自治体から返還を受けられる金銭は、債権として課税の対象に含まれます。
7 みなし相続財産
死亡保険金、死亡退職金は、相続税の計算上は、みなし相続財産として課税の対象になります。
なお、死亡保険金や死亡退職金の受取人が相続人の場合には、一定額までは非課税となっています。
8 相続財産から控除できる債務等
被相続人の債務は、相続財産の評価額から控除することができ、相続税額を低減することができます。
銀行からの借入金等のほか、引き落とし前のクレジットカードの立替金、公共料金、未払いの医療費などが債務に含まれます。
また、被相続人の葬儀費も、民法上は相続債務ではありませんが、相続税の計算上は相続財産から控除することができます。
相続税に関する特例にはどのようなものがあるか
1 相続税を軽減することができる特例
2015年に相続税に関する法律が改正され、基礎控除額が大幅に減少しました。
これにより、相続税の申告および納税を行わなければならない相続人が増えました。
そのため、これまで以上に相続税の節税に関する関心は高まっていると考えられます。
今回は、適用できる方が多く、実務上よく用いられている小規模宅地等の特例について説明します。
小規模宅地等の特例は、正確には特定事業用宅地等に適用されるもの、特定居住用宅地等に適用されるもの、貸付事業用宅地等に適用されるものの3種類があります。
以下、詳しく説明します。
2 特定事業用宅地等に適用されるもの
被相続人等が事業のために使っていた宅地等を相続した場合に適用されます。
適用される限度面積は400㎡、減額される割合は80%です。
被相続人等が事業のために使っていた宅地等を相続した相続人が、その宅地等を相続税の申告期限まで所有し、その事業を申告期限までに引き継ぎ、申告期限まで引き続きその事業を営んでいるという条件を満たす必要があります。
3 特定居住用宅地等に適用されるもの
被相続人等の居住のために使っていた宅地等を相続した場合に適用されます。
適用される限度面積は330㎡、減額される割合は80%です。
被相続人等の居住のために使っていた宅地等を相続した方が被相続人の配偶者である場合には無条件で適用されます。
当該土地を被相続人の同居親族が取得した場合、申告期限までその宅地等を所有し、かつその宅地等に居住しているという条件を満たせば適用されます。
なお、被相続人と同居していない親族が当該土地を取得した場合でも、相続開始前3年以内に、自己または自己の配偶者の持ち家に住んでいないなどの一定の条件を満たす場合には、この特例の適用を受けることができます。
4 貸付事業用宅地等に適用されるもの
被相続人等が貸付事業(不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業などに限ります)のために使っていた宅地等を取得した場合に適用されます。
適用される限度面積は200㎡、減額される割合は50%です。
当該土地を取得した相続人が、その宅地等を相続税の申告期限まで所有し、その事業を申告期限までに引き継ぎ、かつ申告期限まで引き続きその事業を営んでいるという条件を満たす必要があります。